人工知能が人間の仕事を“奪う”として話題を呼んでいます。現在は人間のみが行える知的作業であると考えられている分野についても、大量のデータの中から法則を導き出す人工知能技術によって代替できる可能性があるからです。人手で行われていた見込み顧客の管理や対話を自動化するマーケティングオートメーションも、人工知能が適用できる分野の一つと言えるでしょう。人工知能はマーケティング活動をどのように変えていくのでしょうか。
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人工知能技術が一大ブームとなっています。スマートフォンやセンサー技術の発達により多種多様なデータが取得できるようになり、同時に、それらのデータを分析できるような計算技術やインフラが整ってきたため、爆発的に増える情報から意味のある知見を取り出す取り組みに大きな期待が集まってきました。特に、ユーザーの行動履歴から興味・関心を推定し、最適な訴求を行うマーケティング活動と人工知能技術は相性が良いと考えられています。Amazonが導入した推薦エンジンは、その代表例と言えるでしょう。「この商品を買った人には、この商品がお勧めです」という分析は、蓄積されたユーザーの購買情報から、興味・関心の似たユーザー層と商品群を照らし合わせる人工知能技術により実現されています。
人工知能技術はさらなる広がりを見せています。iOSに搭載されたパーソナルアシスタントSiriは自然言語解析と自動応答プログラムにより、人間の生活を支援してくれます。ソフトバンクが発売した人型ロボットPepperは、人間の感情を読み取り、最適な反応を見せる機能を搭載しています。他にも、IBMやFacebookなど人工知能を活用してビジネスを展開する企業は多数存在します。人間の状態を分析し、最適な判断をくだし、さらに、その判断が最適だったのかを評価・改善する人工知能技術は進歩を続けているのです。
マーケティングオートメーションは人による作業を自動化するという意味で、人工知能との親和性が高い分野であると考えられます。最近注目を集めているマーケティングオートメーションは、人手で行うには手間がかかる作業について、あらかじめ定められたルールに従いソフトウェアが肩代わりしてくれる技術です。具体的には、リード(見込み顧客)の管理、リードの行動履歴から購買意欲を推定するスコアリング、シナリオに従って段階的にコンテンツを提供して興味・関心を刺激するリードナーチャリングなどの機能が含まれます。マーケティングオートメーションを導入したマーケティング担当者は、顧客との関係づくりや戦略立案といった知的作業に集中できるようになります。
マーケティングオートメーションに人工知能が導入されるとしたら、どのような分野が有効になるでしょうか。現在は知的作業として人間が実施している作業を、少しずつ人工知能が支援するようになるのが、マーケティングオートメーションの未来であると考えられます。
リードスコアリングの最適化に人工知能適用の可能性があります。スコアリングは、例えば、Webサイトを訪問したら1点、問い合わせを行ったら10点といったように、人間が点数を割り当てた後に、マーケティングオートメーションツールが採点を行うという流れになっています。しかし、点数が低くてもコンバージョンが達成されたり、点数が高くてもコンバージョンできなかったりすると、スコアリング設定が精度が低い場合があると報告されています。人工知能技術を使えば、点数の割り振り方を変更したり、これまで用いていなかった行動履歴を導入したりして、スコアの割り振り方を最適化できるかもしれません。
リードナーチャリングを行う際のシナリオ設計も人工知能が活躍できる分野です。動画を見たユーザーにはホワイトペーパーを案内し、見ていないユーザーには基本的な解説記事を送付するといった条件付けを行うのがシナリオ設計です。達成すべき目標は、送付するメールの開封率やクリック率になります。人工知能を利用すれば、より開封率やクリック率の高いシナリオを発見できるよう、条件付けを最適化できるようになるでしょう。
Siriのような自動応答システムもマーケティングオートメーションの一部となるかもしれません。Webサイトの問い合わせフォームから24時間365日、顧客からの問い合わせが届きます。問い合わせを受けた際に、最適なタイミングで最適な回答をしなければ、ユーザーの満足度が下がり、せっかくのコンバージョンの機会を逃してしまうかもしれません。自動応答システムを用意しておけば、顧客の問いかけに応じて、必要な情報を案内し、顧客満足度を高めることができます。
人工知能とマーケティングオートメーションの融合は、優れた技術を持つ企業によって開発が進められています。例えば、ConversicaはEメールへ自動応答するセールスアシスタントを提供しています。Conversicaの人工知能は、見込み顧客とEメールでの会話を通じて、購買意欲を判断し、購買意欲の高い見込み顧客を検知した場合は、営業担当者へ見込み顧客の連絡先と連絡するべき時間帯を通知します。営業担当者は直接リードと会話を行い、コンバージョンを獲得するプロセスへ注力できるのです。
Kahunaはモバイル体験を中心としたマーケティングオートメーションの人工知能技術を開発しています。顧客の興味・関心やコミュニケーション方法を人工知能技術により分析し、どのタイミングで、どのような文言で、どのチャネルでアプローチするのが最も効果的かを推定します。Eメールやプッシュ通知といった複数の手段から、自動的にメッセージが通知されます。PCやモバイルなど、顧客が使用するコンピュータ環境が複雑になるほど、人手よりも人工知能が活躍する場面が増えていくのです。
人工知能はマーケティング領域で広く使われてきました。人手での作業を自動化するマーケティングオートメーションは人工知能との親和性が高く、自動応答や最適化の技術によって、人間の知的作業を支援する余地があります。